カイロプラクティックの科学的理論

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竹谷内啓介東京カイロプラクティック院長
日本カイロプラクターズ協会会員
RMIT大学健康科学部カイロプラクティック学科卒業。国際カイロプラクティック試験委員会顧問、日本カイロプラクターズ協会(JAC)会長、世界カイロプラクティック連合(WFC)理事を歴任し、現在は日本カイロプラクターズ協会顧問として、国際標準のカイロプラクティック教育や臨床の普及および日本カイロプラクティック科学学会での研究事業に携わる。主な共訳:カイロプラクティックの安全性と教育に関するWHOガイドライン(世界保健機関)、カイロプラクティックテクニック総覧(エンタプライズ)、脊椎のリハビリテーション(エンタプライズ)など。

カイロプラクティック(Chiropractic)
カイロプラクティックは1895年(明治28年)に米国でD.D.パーマーにより創始された脊椎マニピュレーションを特徴とするヘルスケア(広義の医療)です。背骨を中心とする身体の構造や機能を分析して手技で調整することにより、神経系の働きを正常化する専門的なヘルスケアです。最近の研究では、腰痛や首の痛みなどの筋骨格系症状に効果的であることが明らかになってきました。
病気を扱う西洋医学とは異なり、カイロプラクティックでは自然治癒力を高めて心身の回復を図ることを目的とするため、薬や外科手術は用いません。アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、スイスなどの欧米ではカイロプラクターの国家資格(州資格)があります。オリンピックやプロスポーツでカイロプラクティックは幅広く利用されています。
カイロプラクティックは、WHOのガイドラインで専門大学教育において全日制で最低4年間4200時間以上の教育基準が示されています。当院のカイロプラクターのようにWHOガイドラインの基準を満たす教育を受けたカイロプラターは、解剖学・生理学・病理学など医学部で履修する基礎医学を学んでいるため、あらゆる疾患を抱えた患者さんに対し、まずカイロプラクティックで施術できるものとできないものを判別し、適応の場合にはカイロ治療を、また適応できない禁忌(がん、血液の病気、精神病など)の場合には専門の医療機関に紹介します。
日本ではカイロプラクティックの看板を掲げる治療院が多くありますが、多くは短期で技術を学んだ施術者や誇大広告を掲げる治療院であり、業界は玉石混淆の状態です。できれば適切な倫理観を持つ、国際標準のカイロプラクターによる安心できる治療をお勧めします。
「本物」を謳う宣伝
日本では「カイロプラクティック」の看板を掲げる治療院が数多く存在しますが、その多くは短期間の研修で技術を学んだ施術者によるものや、誇大な広告を掲げているものもあり、業界は玉石混淆の状態にあります。したがって、できるだけ適切な倫理観を持ち、国際標準の教育を受けたカイロプラクターによる、安全で信頼できる治療を受けることをお勧めします。
一方で、「本物」という言葉を宣伝文句として使用している治療院や施術者には注意が必要です。この「本物」という表現は、多くの場合、その人自身にとって都合のよい定義に基づいて使われているに過ぎません。例えば、特定のテクニックを用いるカイロプラクティック、創始者が唱えた原理原則に従うカイロプラクティック、あるいはアメリカのカイロプラクティックこそ本物と主張する立場などが挙げられます。
しかしながら、このような表現を用いるカイロプラクターは、国際的に見ればごく少数派です。世界の多くのカイロプラクティックの専門家は、あくまで医療(ヘルスケア)専門職の一分野として認識しており、テクニックごとに派閥を分けたり、創始者の思想を妄信したり、北米を中心とする独自の優位性を強調したり、さらには西洋医学することはありません。
実際に国際的な学会に参加すると、「本物のカイロプラクティック」という言葉自体がほとんど用いられていないことが分かります。むしろ、世界保健機関(WHO)の指針に基づく国際標準の教育を修了したカイロプラクターを指して「本物のカイロプラクター」と呼ぶ場合があるにすぎません。
サブラクセーションの仮説
カイロプラクティックは、創始国であるアメリカから世界へと普及し、現在ではカナダ、イギリス、フランス、デンマーク、オーストラリア、ニュージーランドなど、アメリカ以外の国々でも盛んに研究が行われています。むしろ今日では、アメリカ以上に世界各国の大学において研究が発展しているといえます。
19世紀から20世紀中頃にかけては、脊椎のゆがみを「サブラクセーション(subluxation)」と呼び(医学的な亜脱臼とは異なる、カイロプラクティック独自の概念)、これにより神経が圧迫され、それを取り除くことで自然治癒力が働き、様々な病気が治癒するという仮説が信じられていました。しかし近年の研究により、サブラクセーションと疾病との間に直接的な因果関係は存在しないことが明らかになっています。そのため、現代の科学的知見においては十分な根拠があるとは認められておらず、国際標準のカイロプラクティック業界にはほとんど支持されていません。さらに、サブラクセーションという用語自体も一般的には医学的な亜脱臼を指すため、勘違いを引き起こさないよう用語の使用を避ける傾向にあり、なおかつ使用するテクニックや専門家の立場、思想によって定義が異なるため、現在では北米、ヨーロッパ、オセアニア地域の国々で「脊椎関節の機能障害(spinal joint dysfunction)」と表現されることが多くなっています。ただし、アメリカの一部の州では依然として古いカイロプラクティック関連法規に「サブラクセーション」という用語が記載されており、また世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(International Classification of Diseases, ICD)にもこの用語が含まれています。
カイロプラクティックは、しばしば「骨格矯正」や「関節を鳴らす整体」と誤解されがちですが、力任せの手技ではなく、脊椎を中心とした身体の構造と機能の関連性に基づく理論的背景を持っています。現在でも、日本整形外科学会のホームページには「内臓をはじめとする身体のさまざまな不調が、脊椎骨の配列の乱れによる神経圧迫に起因するとの考えから、この乱れを矯正して身体機能を回復させようとするものです」といった説明が掲載されています。こうした表現は、カイロプラクティックを正確に伝えているとは言えません。この誤解は医療界の問題だけではなく、カイロプラクティック業界の内部にも要因があります。すなわち、科学的根拠(エビデンス)に基づかない理論を主張し続けている一部のグループの存在が、社会における誤解や偏見を助長しているのです。

神経生理学や生体力学の観点からみると、脊椎関節の機能障害が神経系(脳、中枢神経、末梢神経、自律神経など)に影響を及ぼすことは、すでに確認されています。一方で、脊椎マニピュレーション(アジャストメント)と呼ばれる手技療法によって関節機能の障害を改善することで、どのように身体や内臓の機能が回復するのか、その具体的なメカニズムについてはまだ明確に解明されていません。腰痛などの痛みを抑制する脊椎マニピュレーションの効果については、少しずつ研究が進んでいます。また、脊椎マニピュレーションによる関節機能への刺激と、身体や内臓の機能回復との間に直接的な因果関係があるかどうかは未だ不明ですが、現時点では何らかの相関関係が存在すると考えられています。
正確な情報収集

現在、カイロプラクティックは世界的に広く認知されており、WHO(世界保健機関)も補完・代替医療の分野においてその位置づけを行っています。アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、フランスなど多くの国では、医療制度の中で補完・代替医療の一環としてカイロプラクティックが提供されており、さらにスイスやデンマークなど一部の国々では、西洋医学の領域に組み込まれています。こうした国々では、カイロプラクターは医療制度に正式に位置づけられた専門職として、プライマリケア医療従事者の役割を担い、健康管理や疾病予防、機能障害の改善、リハビリテーションなど、幅広いヘルスケアに貢献しています。わかりやすく言えば、医師が担当する「疾病の治療」ではなく、その周辺にある健康の維持や回復を扱うのがカイロプラクターの専門領域です。
カイロプラクティックの研究は主に英語で発信され、世界中で進展を続けています。しかし日本では、カイロプラクティックが法制化されていないことに加え、英語が十分に普及していないため、海外の正確な情報が国内に適切に伝わりにくいのが現状です。さらに、日本の医療制度は国際的な基準から見ても保守的で、医療界の既得権益を重視する傾向が強いため、海外の最新情報が広まる妨げにもなっています。その背景には、厚生労働省が既得権益構造を大きく変えることが困難であるという事情があり、そのため国民の利益に直結した改革が進まないと批判される要因になっています。実際、厚生労働省が独自に報告しているカイロプラクティックに関する調査内容も、海外で共有されている科学的知見とは大きく乖離しています。
したがって、「本物のカイロプラクティック」という宣伝的な言葉に惑わされることなく、国際的に医療や科学分野で認知されている「正確なカイロプラクティックの情報」に触れていただくことが重要です。
現在の科学的理論

カイロプラクティック治療は、厳密には西洋医学における一般的な「疾病治療:Medical care」(病気そのものを治すことを目的とする治療)とは異なります。カイロプラクティックの目的は、身体が本来持つ自然治癒力を高めることであり、その結果として症状が軽減・消失したり、病気が改善する場合もありますが、病気を直接治すこと自体を目的としてはいません。具体的には、脊椎を中心とした骨格や筋肉の不安定な状態を改善し、神経系の働きを正常化することを重視しています。これにより、身体の機能が調整され、自然治癒力が十分に発揮される環境が整えられます。広義の医療も意味する「健康管理:Health care」(心身の健康維持、および未病対策などの予防医学)であると言えます。
さらに、エビデンスに基づくカイロプラクティックの理論は、生体恒常性(ホメオスタシス)の維持を目的としており、脊椎の解剖学を基盤に、神経生理学や生体力学の観点から身体を分析する体系的な学問として位置づけられています。
生体恒常性(ホメオスタシス)とは
人体には、外部環境や体内の変化に対して、生きるために必要な生理機能を常に正常に保とうとする仕組みがあり、「ホメオスタシス(恒常性維持)」と呼ばれます。体温や血液循環、血圧、血糖値、呼吸、免疫、エネルギー代謝など、さまざまな生理機能は、休むことなく体内で調整され続けています。たとえば、体温が上昇すると、体温調節中枢がその変化を感知し、神経系を通じて血管や筋肉、内分泌器官などに指令を送り、体温を平熱に戻そうとする反応が起こります。このような生命維持に関わる生理機能は、互いに密接に関連して多層的に連携して、体の恒常性を維持するように働いています。
神経生理学とは
神経細胞の電気的な活動や神経系の働きを解析することで、脳、脊髄、末梢神経の機能を理解し、さらにそれらが生み出す運動、知覚、記憶、学習といった働きを明らかにしようとする学問です。脳波、筋電図、誘発電位、機能的MRIなどの手法を用いて神経機能を「見える化」し、評価することで、神経疾患の病態の解明、診断、治療法に役立てます。そして脳機能の理解を目指しています。また、心理学とも深い関わりがあり、心の働きを脳の機能から探る「神経心理学」や、知覚や行動にともなう生理的な現象を研究する「生理心理学」など、関連する多様な分野が存在します。
生体力学(バイオメカニクス)とは 生物の構造や運動を力学的な視点から探究する学問であり、医学、工学、スポーツ科学など、さまざまな分野で応用されています。具体的には、歩行時の筋肉の働きや関節にかかる負荷、骨の構造とその力学的性質との関係を分析するほか、人工臓器、リハビリテーション技術、健康器具の開発などにも活用されています。
安全性
カイロプラクティックは、適切な教育と訓練(専門大学教育)を受けたカイロプラクターによって施術を受ける場合、比較的安全な治療法です。ただし、一時的に軽度から中等度の副作用がみられることがあります。最も一般的なのは、痛みや不快感の増加、こわばり、頭痛などで、これらは脊椎マニピュレーションやモビリゼーション(緩和操作)の後に一時的に生じることがあります。多くの場合、これらの症状は24時間以内に自然に軽快します。一方で、まれに重篤な副作用として脊髄・神経障害や、頸部の動脈損傷に伴う脳卒中が報告されています。しかし、これらは極めて稀なケースであり、その発生頻度を正確に推定することは困難です。
カイロプラクティックの安全性について批判する医療関係者の多くは、カイロプラクティックの教育基準や正しい施術方法を十分に理解していない場合があります。特に日本国内では、カイロプラクティックに関する法律が整備されていないため、さまざまな医療従事者や民間療法従事者が、十分なカイロプラクティック教育を受けずに脊椎マニピュレーションを行っている場合があります。当院では、日本カイロプラクターズ協会(JAC)の会員として、科学的根拠に基づいた安全な施術を提供しています。





